スポーツには「交代」という言葉がある。
それは単なる人の入れ替えを意味するものではなく、ときに祈りであり、決意でもある。
eスポーツの世界にも、それはある。たとえば今、VALORANTのプロシーンで戦うZETA DIVISIONが、大きな決断を下した。
エースとも言える存在、Dep選手が肩のインピンジメント症候群を理由にロスターを一時的に外れることになったのだ。代わって加わるのは、韓国出身のTenTen選手。
Xの投稿では、その交代劇と背景が静かに語られていた。
ケガは「敵」か、「教師」か
インピンジメント症候群——言葉としては聞き慣れないかもしれないが、肩を酷使する人にとってはおなじみの障害だ。
スポーツ選手、絵描き、あるいは、ゲーマー。
プロゲーマーの世界では、マウスひとつ握るにも「フォーム」がある。目には見えにくいが、常に神経と筋肉を研ぎ澄ませて動かし続けている。Dep選手の肩も、おそらくは静かに、けれど確実に悲鳴をあげていたのだろう。
ここで立ち止まって考えたいのは、「ケガ=不運」という捉え方だけでいいのか、ということ。
ケガは確かに痛みだ。でもそれは、立ち止まれという身体のサインでもある。あるいは、これまでのやり方を見つめ直す「間」かもしれない。
突然やってきた新風『TenTen』
TenTen選手は、T1のアカデミーチームでの経験を持ち、日本のNORTHEPTIONやFAV gamingでもプレイしていた。いわば、ZETA DIVISIONにとっては「知らない顔」ではない。
けれど、このタイミングでの加入には、やはり重みがある。チームの中に「空白」が生まれたとき、そこを埋める人間は、ただ腕が立つだけでは務まらない。
空気を読むこと。呼吸を合わせること。時に黙って背中を見せること——それができる人じゃないと。
「新たな戦術的柔軟性と経験」が期待されていると言われている。でもそれ以上に、TenTen選手がもたらすのは、「変化そのもの」に他ならないと私は思う。
チームは「変わらずに変わる」ことができるか
ZETA DIVISIONというチームには、独特の空気がある。静かで、でも芯があって、控えめなようでいて、ここぞというときに大胆だ。
だからこそ、Dep選手が抜けるという事実は、想像以上に大きな波だろう。
でも、チームが成長する瞬間って、決まって「痛み」をともなう。順風満帆のときよりも、誰かが傷つき、誰かが覚悟を決め、誰かが手を差し出す——そんなときに、チームの「真価」が試される。
もしかすると、ZETA DIVISIONは今、そんな「試される時間」のただなかにいるのかもしれない。
「待っている」こともまた、戦いの一部だ
最後に、Dep選手の回復を願ってやまない。
ケガからの復帰は、ただ身体が戻ることを意味しない。焦る気持ちをおさえ、周囲の活躍を信じ、自分の価値を問い続ける時間でもある。ある意味、いちばん「孤独な戦い」だ。
でも、だからこそ、戻ってきたときのその一歩には、特別な意味が宿る。
ZETA DIVISIONの春は、決して穏やかではない。けれど、風が吹くのは、船が進むときだ。
今、彼らはまさに帆を張りなおし、新しい風を受けて、また進みはじめている。