著者:GOZEN AI Lab管理人
生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放すため、生成AIを活用した業務効率化施策、自動化ワークフローの構築・運用などを手がけ、実践と継続的な改善を通じて仕組みづくりを推進している。
結論:AIを使う側に立て。でなきゃ使われて終わる。
2025年現在、AI(人工知能)の技術がどんどん進化していて、会社がモノやサービスを作るやり方、そしてそれを管理する方法が大きく変わってきています。たとえば、ChatGPTやGeminiのような「生成AI」が登場したことで、プロダクトマネージャーという仕事の役割や、必要なスキルが新しくなりつつあります。
この記事では、AI時代にプロダクトマネージャーとして活躍するためにぜひ知っておきたいスキルと、それをどうやって身につけていけばいいのかを、最新の情報も交えてお伝えします。すでにAIを使った製品開発に関わっている方はもちろん、これから新しいキャリアを考えている方や、チームを引っ張るリーダーの方にも役立つはずです。
AI時代におけるプロダクトマネジメントの変化
AIが製品開発にもたらしている変革
米コンサルティング会社McKinseyが発表した調査によると、多くの会社(73%)が「AIを使って市場調査やお客様の意見の分析をすごく効率的にできるようになった」と答えています。 日本でも経済産業省の報告書で「AIを活用した製品開発」の事例が増えていて、プロダクトマネージャーの役割が「データに基づいて戦略を立てる人」に変わってきていると指摘されています。
AIが登場したことで、プロダクトマネージャーの仕事は次のように変化しています。
- 情報の処理が速くなった: AIはとてもたくさんの情報をあっという間に整理・分析して、色々な角度から結果を見せてくれます。
- 決まった作業が自動化された: 書類作成や仕様(製品の詳しい内容)を決めるための最初の案をAIに任せることで、作業にかかる時間を減らせます。
- 意思決定の質が上がった: データに基づいた予測やおすすめ情報によって、もっと確実な判断ができるようになりました。
プロダクトマネージャーの役割の進化
AIが広く使われるようになったことで、プロダクトマネージャーの役割は「作業を実行する人」から「戦略的に物事を決める人」へと進化しています。今のプロダクトマネージャーには、次のような役割が求められています。
- 素早い戦略立案と意思決定: AIが色々な選択肢を出してくれる中で、最終的な判断を下し、なぜその判断をしたのかを分かりやすく説明することが重要です。
- 現場の理解とユーザーへの共感: AIだけでは拾いきれない「お客様の本当の気持ち」を理解するために、お客様と直接話すことが大切です。
- データの安全性・AIの倫理観の理解: AIを使う上で、個人情報が漏れないようにしたり、AIが社会に悪い影響を与えないようにする知識が必要です。
- 色々な部門との調整能力: 開発チーム、営業、マーケティング、法務、経営層など、様々な部門の要望をまとめ上げる力も求められます。
AIプロダクトマネージャーに求められる必須スキルセット

AIプロダクトマネージャーになるためには、大きく分けて4つの種類のスキルが必要です。
技術的な知識
AI/機械学習の基本的な知識
AIプロダクトマネージャーは、AIや機械学習(AIがデータから自分で学習する仕組み)の基本的な仕組みを理解する必要があります。特に次の知識が重要です。
- 機械学習の主な種類や、それがどんな時に役立つか
- 「教師あり学習」と「教師なし学習」の違い(データを元に学習させるか、させないかの違い)
- 大規模言語モデル(LLM) の仕組みと、できること・できないこと(ChatGPTのようなAIのベースになる技術)
- AI開発の一連の流れや、AIの性能を測る方法
開発者レベルの深い技術知識は必ずしも必要ありませんが、エンジニアやデータサイエンティスト(データを分析する専門家)とスムーズに話すための共通の言葉を持つことが求められます。


データサイエンスの理解
AIモデルは、もとになるデータに大きく影響されます。そのため、データの質や特徴を理解することがとても大切です。
- データ収集や前処理(データクレンジング)がなぜ重要なのか
- 「特徴量エンジニアリング」の基礎(AIが学習しやすいようにデータを加工する技術)
- データの偏り(バイアス)を見つけたり、それに対処する方法
- A/Bテスト(2つの異なるパターンを比較して、どちらが良いかを検証する方法)の設計や、結果の分析
AIモデルの性能評価
プロダクトマネージャーは、AIモデルがどれくらいの性能を出しているかを理解し、それがビジネスの目標と合っているかを評価できる必要があります。
- 精度、再現率、F1スコアなど、AIの性能を評価する数字の意味を理解すること
- AIモデルの限界や苦手な点を把握すること
- スケーラビリティ(利用者やデータが増えても対応できるか)や、コストがどれくらいかかるかの分析
- 性能を上げるために、何を諦めるか(トレードオフ)を判断すること
ビジネススキル
戦略的な考え方とビジョンを形にする力
AIに限った話ではありませんが、プロジェクトを成功させるには、はっきりとした目標(ビジョン)と戦略が欠かせません。
- 市場でのチャンスを見つけ、何から手をつけるかを決める
- 競合他社を分析し、自社の立ち位置を明確にする戦略
- 製品開発の計画(プロダクトロードマップ)を作り、状況に合わせて調整する
- AIの可能性と現実のギャップを埋める、地に足の着いた目標設定
データに基づいた意思決定
こちらも「AI時代だから」というわけではなく、基礎的な部分です。感覚や経験だけでなく、データに基づいた判断が求められます。
- KPI(重要業績評価指標)とOKR(目標と主要な結果)を設定し、進捗を追いかける
- お客様の行動データから、意味のある情報(洞察)を引き出す
- 市場の流行やお客様の意見をまとめ、活用する
- 数字でわかるデータと、お客様の声のような定性的なデータを組み合わせて、総合的に判断する
AIプロジェクトならではのビジネスモデルの理解
AIプロジェクトには、従来のプロジェクトとは違うビジネスモデルが必要になることがあります。
- サブスクリプション(月額課金)と従量課金(使った分だけ支払う)、フリーミアム(基本的な機能は無料、高度な機能は有料)といったモデルの理解
- データの価値と、それを使ってどう利益を生み出すか
- 製品が大きくなることによるメリットとコスト構造の理解
- オープンソース(無料で公開されているソフトウェア)とプロプライエタリ(特定の会社が所有するソフトウェア)のどちらを選ぶか
倫理と法律に関する理解
AIの倫理とプライバシー保護
AIを導入する上で、倫理的な問題を理解し、適切に対応する能力は必須です。
- AIの偏り(バイアス)を見つけ、それを減らすための戦略
- プライバシー・バイ・デザインの実践(最初からプライバシー保護を考えて製品を設計すること)
- AIの判断がなぜそうなるのか、透明性を持って説明できるようにすること
- AIが社会に与える影響を評価すること
法律や規制への対応とリスク管理
急速に変わるAIの規制環境を理解し、法律を守ることが重要です。
- GDPRやCCPAのような個人情報保護の法律
- 業界特有のルール(たとえば医療業界など)
- 将来の規制の動きを予測し、準備すること
- リスクを減らすための戦略を立てること
コミュニケーション能力やリーダーシップ(ソフトスキル)
コミュニケーションとストーリーテリング
複雑なAIの考え方を、様々な立場の人に分かりやすく伝える能力は必須です。
- 技術的な内容を、技術者ではない人にも分かるように説明すること
- データから得られた情報や洞察を、人を納得させるストーリーにすること
- 期待されることと、できることのギャップを調整し、透明性を保つこと
色々な専門家が集まるチームのマネジメント
AI製品やサービスの開発は、様々なスキルを持つチームの連携が必要です。
- エンジニア、データサイエンティスト、デザイナーの間で橋渡し役になること
- 技術的な制約と、お客様の要望のバランスを取ること
- 複雑なタスクの優先順位を決めること
- 様々な専門家の知識をまとめ上げるための調整役
急速な変化に対応する力
AIの進化はとても速いので、変化に対応する力と、常に学び続けることが欠かせません。
- 新しいAIツールや技術を素早く理解すること
- 失敗から学び、必要であれば方向転換する判断力
- 不確かな状況の中でも意思決定すること
- 常にスキルをアップデートし続けること
ジャンル横断で求められる技術・ビジネス・UXのバランス
AIプロダクトマネージャーに特に重要なのは、色々な専門分野を広く理解し、それらをまとめて活用する能力です。
技術とビジネスの橋渡し役
AIプロダクトマネージャーは、AI技術でできることと、それがビジネスにどんな価値をもたらすかのバランスを取る必要があります。
- AI技術でできることと、現実的な限界を理解する
- ビジネスの目標(KPI)を、AIプロジェクトの技術的な目標に変換する能力
- AIへの投資が、どれくらいの利益を生むかを評価する
- 短期的な成果と、長期的な技術投資のどちらを優先するかを判断する
ユーザー体験(UX)とAI機能の統合
AIを搭載した製品は、お客様にとって使いやすいデザイン(UX)と、AIの機能の両方が優れている必要があります。
- AIがおすすめする機能や自動化された機能と、お客様が自分で操作できる部分とのバランス
- AIモデルが完璧ではないことや限界を、お客様に分かりやすく伝える透明性
- お客様からの意見を取り入れて、AIを継続的に改善していく仕組みを設計する
- AIがもし間違った時に、システム全体が止まらないようにする(グレースフルデグラデーション)
データ戦略と製品開発の同時進行
AIプロダクトマネージャーは、データ戦略と製品開発を同時に進める必要があります。
- 初期のデータ収集と、AIモデルの品質という「鶏と卵」の問題に対処する
- データの質を上げるか、製品の機能を増やすか、どちらを優先するかを決める
- 個人情報保護と、お客様への価値提供のバランス
- データフライホイールの構築と、持続可能なデータ活用の仕組みを設計する
AI活用による業務効率化の実践例

AI時代のプロダクトマネージャーは、自分自身の仕事にもAIを活用することで、効率を上げることができます。
ドキュメント作成とコミュニケーション
SmartHRの事例では、プロダクトマネージャーがCursorやNotebookLMのようなAIツールを使って、次のようなことを実現しました。
- 製品要求仕様書(PRD)の具体化や内容の整理を、より短時間かつ高精度で行える
- 作業項目(PBI)の自動生成を実現。約8割はそのまま実務で使える精度に。
- ドキュメントの構成やブラッシュアップをAIのサポートで効率アップ
データ分析と意思決定のサポート
AIを活用してデータ分析と意思決定を速くする方法です。
- Redashのクエリ(データベースに問い合わせる命令)をAIが生成し、データ分析の効率アップ
- 市場調査や競合分析をAIがサポートし、流行を素早く把握
- お客様インタビューの内容をAIが分析し、重要なヒントを抽出
試作品(プロトタイプ)作成と検証の効率化
AIツールを活用して製品開発を速くする方法です。
- AIとノーコードツールを使って、素早く試作品を作成
- AIを活用して、UX/UIデザインの様々なパターンを生成
- A/Bテストの分析と、より良い方法を見つけるのをAIがサポート
AIプロダクトマネージャーとしてのキャリアパス
AIプロダクトマネージャーとしてのキャリアは、色々な進み方があります。
スペシャリストからジェネラリストへの発展
AIプロダクトマネジメントでは、次のようなキャリアの進み方があります。
- AI機能に特化したPM → 製品全体のPM → 製品戦略の責任者
- 特定の業界のAI PM → 複数の業界に関わるAIコンサルタント
- AI製品開発PM → AIイノベーションの責任者
業界別の専門化
業界によって求められるAIプロダクトマネージャーの専門性は異なります。
- 金融: リスク評価や法律順守に強いAI PM
- 医療: 医療データや患者さんのプライバシーに詳しいAI PM
- 小売/EC: お客様一人ひとりに合わせた体験や、顧客満足度を高めることに特化したAI PM
- 製造: IoT(モノのインターネット)とAIの統合に強いAI PM
組織の規模別のキャリアパス
会社の規模によってもキャリアパスは変わります。
- スタートアップ: 少人数のチームで、AI製品の立ち上げから成長までを一貫して担当
- 中堅企業: 特定のAI機能やプロジェクトの責任者として、深い専門性を発揮
- 大企業: AIの戦略や、会社全体のAI活用のルール作りを担当し、組織全体のAI活用を進める
AI時代のプロダクトマネージャーの成功事例
こちらは実際の成功事例から学ぶAIプロダクトマネジメントのヒントです。
ペプシコの事例 – 製品開発の変革
ペプシコでは、生成AI(新しいものを生み出すAI)を製品の研究開発に活用し、チートスの新しい味と形を生み出すことで、市場での浸透率を15%増やしました。
「私たちは、新しいCheetos製品のイノベーションと開発サイクルを6週間に短縮することに成功しました。ジェネレーティブAIにより、これまで想像もできなかった方法で製品の特性を最適化できるようになりました。」
テクニカルライターからAIコンテンツストラテジストへのキャリア転換例
ITメディアで5年間テクニカルライターとして活躍していた田中さん(仮名)は、ChatGPTやGeminiなどの生成AIが登場したことをきっかけに、キャリアを変えることを決意しました。
- 活かした強み: 技術への深い理解、分かりやすい説明能力、文章を整えるスキル
- 新たに習得したスキル: プロンプトエンジニアリング(AIへの指示の出し方)、AIコンテンツ生成ツールの活用、データ分析
- 現在の役割: 大手企業のAIコンテンツストラテジストとして、AIと人が協力してコンテンツを作る仕組みを主導しています。
システムエンジニアからAIソリューションアーキテクトへの転身例
金融システムのバックエンドエンジニアとして10年のキャリアを持っていた佐藤さん(仮名)は、AIエージェント(自動でタスクを実行するAI)の台頭を予測してキャリアチェンジしました。
- 活かした強み: システム全体の設計能力、金融業務の知識、API連携(システム同士をつなぐ技術)の経験
- 新たに習得したスキル: LLM(大規模言語モデル) の基礎知識、RAG実装(AIが社内資料などを参照して回答する技術)、AIエージェントのフレームワーク
- 現在の役割: 金融機関向けのAIソリューションアーキテクトとして、お客様サポートや投資アドバイスのためのAIエージェント設計を担当しています。
まとめ:AI時代のプロダクトマネージャーとしての成長
AIが急速に広まったことで、プロダクトマネージャーの役割は大きく変わってきています。AIプロダクトマネージャーとして成功するためには、次のことが大切です。
- 常に学び、変化に対応すること: AI技術はどんどん進化しているので、常に学び続ける姿勢が欠かせません。
- 技術とビジネスの両方を理解すること: 技術で何ができて、それがビジネスにどう役立つかを結びつける能力が、他の人との違いを生みます。
- お客様を一番に考える設計: AIの技術的な魅力に惑わされず、本当にお客様の役に立つ製品を設計することが重要です。
- 倫理と透明性: 責任を持ってAIを導入することで、長く続く価値を生み出すことができます。
AIプロダクトマネージャーは、これからの時代に必要不可欠な存在です。もしこの記事がヒントになったなら、今こそスキルを磨き、未来のプロダクトを動かす側へと踏み出してみてください。
よくある質問:FAQ

Q1. AIプロダクトマネージャーになるためには、必ずプログラミングスキルが必要ですか?
A1. 必ずしも高度なプログラミングスキルは必要ありません。ですが、基本的なデータ分析スキル(SQLやPythonの基礎など)と、AIがどんなものか理解していれば十分です。エンジニアとスムーズにコミュニケーションを取るための共通言語を持つことが重要です。
Q2. 今プロダクトマネージャーとして働いている人は、どうやってAIスキルを身につければいいですか?
A2. オンライン講座(Coursera、Udacityなど)を受講したり、AI関連のプロジェクトに実際に参加してみたり、AIツールを日々の業務に試しながら取り入れてみるのが効果的です。データサイエンティストと一緒に作業することも、学習を速めてくれます。
Q3. AIプロダクトマネージャーの市場価値はどのくらいですか?
A3. 2025年現在、AIプロダクトマネージャーはとても需要が高く、一般的なプロダクトマネージャーよりも15%~30%高い給料が期待できます。特に金融、医療、テクノロジーの分野で、その需要が顕著です。
Q4. AIを活用した製品開発で最も難しい課題は何ですか?
A4. データの質を確保すること、AIモデルがなぜそう判断したのか説明できるようにすること、お客様の期待値を適切に管理すること、AIが間違った時に適切に対処することなど、技術的な課題と人に関わる要素のバランスを取ることが難しい課題となっています。
Q5. 小さなチームでもAI製品開発は可能ですか?
A5. はい、可能です。最近は、クラウドのAIサービスや無料で使えるAIモデルが増えているので、小さなチームでもAI製品の開発ができるようになっています。限られたリソースの中で開発する際は、問題をはっきりさせて、既存のAIツールやAPI(システム同士をつなぐ部品)を上手に活用することがポイントです。
専門用語解説
- RAG(Retrieval-Augmented Generation)
大規模言語モデル(LLM)が答えを生み出す能力と、情報検索を組み合わせた技術。
会社独自の資料などをAIに参照させることで、より正確で状況に合った回答が可能になる。 - プロンプトエンジニアリング
AIモデルに対して、より効果的な指示(プロンプト)を工夫して作る技術。
適切なプロンプトにより、AIの出力の質と一貫性を大きく向上させることができる。 - データフライホイール
データからAIモデルを学習させ、モデルの性能を向上させることで、
さらに質の高いデータとモデルを生み出す好循環のサイクル。