著者:GOZEN AI Lab管理人
生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放すため、生成AIを活用した業務効率化施策、自動化ワークフローの構築・運用などを手がけ、実践と継続的な改善を通じて仕組みづくりを推進している。
結論:AIの進化は“幻覚”も進化させる─だから、私たちは見抜かねばならない。
生成AIが私たちの仕事や生活に浸透する中で、最も注意すべき問題の一つが「ハルシネーション(AI幻覚)」です。まるで真実のように語られる間違った情報に、多くの人が困惑しているのではないでしょうか。この記事では、生成AIのハルシネーション対策について詳しく解説します。
特に2025年には、産業技術総合研究所(産総研)が「生成AI品質マネジメントガイドライン第1版」を発表するなど、AI業界全体での品質管理体制が大きく進歩しています。一方で、最新のAIモデルでは推論能力の向上と引き換えに、ハルシネーション発生率が一部で悪化しているという報告もあり、対策の重要性はさらに高まっています。
ハルシネーションとは何か?
ハルシネーションの基本概念
ハルシネーション(AI幻覚)とは、生成AIが実際には存在しない情報や、事実と異なる内容をあたかも真実のように出力してしまう現象のことです。ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデル(LLM)において、特に顕著に見られる問題として認識されています。
現在の研究によると、最新のOpenAI o3モデルでは33%、o4-miniモデルでは48%という高いハルシネーション発生率が記録されており、高性能なAIモデルでも完全な解決には至っていないことが明らかになっています。
ハルシネーションの具体例
実際に起こりうるハルシネーションの例を見てみましょう:
- 人物情報の捏造:存在しない専門家の発言を引用する
- 統計データの間違い:実際とは異なる数値や研究結果を提示する
- 歴史的事実の誤り:年代や出来事の詳細を間違える
- 引用元の虚偽:存在しない文献や記事を情報源として挙げる
- 製品情報の誤記:実在しない製品仕様や価格を提示する
これらの問題は、単なる「計算間違い」ではなく、AIが自信を持って間違った情報を提供するという点で、特に危険性が高いとされています。
ハルシネーションが発生する原因
技術的な原因
- 学習データの偏りと限界
生成AIは大量のテキストデータで学習していますが、そのデータ自体に偏りや間違いが含まれていることがあります。また、学習データには時間的な制約があるため、最新情報については対応できない場合があります。 - 統計的言語生成の仕組み
現在の生成AIは、次に来る単語を確率的に予測して文章を生成しています。この仕組み上、文脈に合う「もっともらしい」内容を生成することはできても、事実かどうかの検証は行っていません。 - 内部的な情報処理の複雑さ
大規模言語モデルは数十億から数兆のパラメータを持つ複雑なシステムです。この複雑さゆえに、どのような経路で特定の出力が生成されるかを完全に追跡することは困難です。
使用環境による要因
- 曖昧な質問や指示
不明確な質問は、AIが解釈の幅を広げてしまい、結果として不正確な情報を生成する可能性を高めます。 - 専門分野の知識不足
特定の専門分野については、学習データが不足していたり、古い情報に基づいていたりする場合があります。
即実践できるハルシネーション対策【基本編】

プロンプトエンジニアリングの活用
具体的で明確な指示を出す
悪い例:「最近のAI技術について教えて」
良い例:「2025年に発表された生成AIのハルシネーション対策技術について、具体的な手法を3つ挙げて説明してください」
事実確認を促すプロンプト
- 「情報源を明記してください」
- 「不確実な場合は『わからない』と答えてください」
- 「回答の根拠となる具体的なデータを示してください」
- 「この回答の信頼度を1-10で評価してください」
複数の情報源による検証
クロスチェックの実践
同じ質問を異なるAIツールで試し、回答を比較することで、明らかな矛盾や誤りを発見できます。また、生成された情報については、必ず信頼できる一次情報源で確認する習慣をつけましょう。
ファクトチェックの習慣化
基本的なファクトチェック手順
- 固有名詞や数値データの確認
- 引用された文献や情報源の実在性確認
- 公式サイトや信頼できるメディアでの裏取り
- 複数の独立した情報源での検証
- 最新性の確認(いつの情報か)
高度なハルシネーション対策【応用編】
RAG(Retrieval-Augmented Generation)の進化した活用
RAG技術は大幅な進化を遂げています。最新のRAG技術には以下のような特徴があります:
マルチホップRAG
単一の検索ではなく、複数段階の検索を行うことで、より複雑な質問に対しても正確な情報を提供できるようになりました。
ハイブリッドインデックス
密ベクトル(Dense Vector)と疎ベクトル(Sparse Vector)を組み合わせたハイブリッドインデックスにより、意味的類似性とキーワードマッチングの両方を活用できます。
Context-Aware RAG
ユーザーの質問だけでなく、会話全体のコンテキストを考慮して関連情報を検索する技術が発展しました。
自己検証(Self-Verification)の実装
最新のアプローチでは、以下のような自己検証手法が効果的です:
マルチエージェントデベート
異なる役割(懐疑派、擁護派、中立的評価者など)を持つ複数のAIエージェントが、生成された内容について議論し、その信頼性を評価するシステムが実用化されています。
Chain-of-Thought検証
AIに多段階推論を実行させ、各ステップの論理的一貫性を自己検証させる手法が精度向上に貢献しています。
グラウンディング技術の最新動向
グラウンディング技術は以下のような進化を見せています:
マルチモーダルグラウンディング
テキストだけでなく、画像、音声、動画などの複数のモダリティを用いて事実を検証する技術が発展しています。
リアルタイムグラウンディング
API連携によりリアルタイムデータを活用したグラウンディングが可能になっています。
2025年の最新技術動向とガイドライン
産総研の品質マネジメントガイドライン
2025年5月、産業技術総合研究所(産総研)が「生成AI品質マネジメントガイドライン第1版」を発表しました。このガイドラインでは、以下の要素が重要視されています:
- システム要件の明確化:想定用途に基づく品質要件の導出
- コンポーネントごとの品質管理:システムを構成する各部品の品質特性管理
- 継続的なモニタリングと改善:運用フェーズでの品質維持
最新検出技術の発展
TLM(Triple Language Model)手法
三つの言語モデルを用いて幻覚を検出する方法で、2025年のベンチマークでは最も効果的な検出方法の一つとして評価されています。
LettuceDetect技術
RAGシステムのハルシネーションを自動で高速に検知する新手法として注目されています。
富士通のハルシネーション検出技術
世界トップクラスの技術として、AIの間違いを見抜く専用システムが実用化されています。
3. 自動ファクトチェック技術の実用化
現在、以下のような自動ファクトチェック技術が実用化されています:
- NECの偽・誤情報分析技術:インターネット上の情報の真偽を多面的に分析
- Googleの自動ファクトチェックツール:AI自身が回答の正確性を検証
- Microsoft Copilotの信頼性評価機能:回答に対する信頼度スコアの表示
企業向けハルシネーション対策
AI利用ガイドラインの策定
2025年版ガイドライン策定のポイント
- AI利用の適用範囲と制限事項の明文化
- 出力内容の検証プロセスの標準化
- 責任の所在と承認フローの確立
- セキュリティとプライバシー配慮の強化
人的チェック体制の構築
専門家によるレビュー体制
- 重要な文書についてはAIを「案出し」にとどめる
- 専門知識を持つ人材による内容確認
- 段階的な承認プロセスの導入
- 定期的な出力品質評価の実施
業界別対策の実装
金融業界
- 投資アドバイスシステムにおける複数検証レイヤー
- リアルタイム市場データとの整合性チェック
- 金融規制コンプライアンスに特化したガードレール
医療分野
- 医学エビデンスレベルを明示した情報提供
- 最新医学文献データベースとの連携
- 専門医による定期的な出力評価
法律分野
- 判例データベースへの直接参照機能
- 法律条文の正確な引用検証
- 法務専門家による定期的な出力評価
まとめ
生成AIのハルシネーション対策は、2025年現在も完全に解決されたわけではありませんが、技術的な進展によって大きく改善されつつあります。重要なのは、AIの限界を正しく理解し、その上で複数の対策を適切に組み合わせながら活用していくことです。
2025年の最新動向としては、産業技術総合研究所(産総研)によるガイドラインの発表や、マルチエージェント・デベート技術の実用化、自動ファクトチェック技術の進歩などが挙げられます。一方で、最新の推論能力を備えたAIモデルにおいて、ハルシネーション率の悪化が報告されるケースもあり、依然として対策の重要性は高まっています。
今後も技術の進化に伴って、より効果的な手法が登場してくると期待されますが、安全かつ信頼性の高いAI活用のためには、継続的な情報収集と実践を通じた知見の蓄積が不可欠です。
よくある質問:FAQ

Q1. ハルシネーションは完全に防ぐことができますか?
A1. 2025年現在の技術では完全な防止は困難ですが、適切な対策により発生率を大幅に削減することは可能です。複数の手法を組み合わせることで、実用的なレベルまで信頼性を向上させることができます。最新のマルチエージェントデベート技術では、従来比80-90%の削減効果が報告されています。
Q2. 企業でAIを導入する際、最も重要な対策は何ですか?
A2. 産総研の2025年ガイドラインによると、人的チェック体制の構築が最重要です。特に重要な業務では、AIの出力を専門知識を持つ人が必ず確認し、最終的な判断は人間が行うという原則を確立することが大切です。
Q3. RAGを導入するコストはどの程度でしょうか?
A3. 2025年現在、クラウドサービスの進歩により導入コストは大幅に下がっています。小規模なテスト導入であれば月額数万円から可能で、企業規模での本格導入でも従来の1/3程度のコストで実現できるようになりました。
Q4. 個人でできる最も効果的な対策は何ですか?
A4. 明確で具体的なプロンプトを心がけ、生成された情報を必ず複数の信頼できる情報源で確認することです。2025年の最新プラクティスとして、「この回答の信頼度を評価してください」といった自己評価を求めるプロンプトも効果的です。
Q5. 2025年以降のハルシネーション対策技術の展望は?
A5. マルチモーダルグラウンディング技術のさらなる発展、リアルタイム情報更新機能の向上、そしてAI自身による信頼性評価機能の高度化が期待されています。また、業界特化型の対策ソリューションがより普及することで、各分野での安全性が大幅に向上すると予想されます。
専門用語解説
- ハルシネーション(AI幻覚)
生成AIが事実とは異なる情報をあたかも真実のように出力する現象。人間の幻覚症状になぞらえてこう呼ばれています。2025年の研究では、推論能力の向上と引き換えにハルシネーション率が上昇する傾向も確認されており、技術開発上の重要な課題となっています。 - 大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで学習された、自然言語処理を行うAIモデル。ChatGPTやGeminiなどがこれに該当し、数十億から数兆のパラメータを持つ巨大なニューラルネットワークで構成されています。2025年現在、o3やGemini 3.0などの最新モデルが登場しています。 - RAG(Retrieval-Augmented Generation)
「検索拡張生成」と呼ばれる技術で、質問に対してまず関連する文書を検索し、その情報を基に回答を生成する手法。2025年版では、マルチホップ検索やハイブリッドインデックスなどの新機能により、精度が大幅に向上しています。 - グラウンディング技術
AIの出力を事実に「接地」させる技術。2025年現在では、マルチモーダル対応やリアルタイムデータ連携により、より高精度な事実検証が可能になっています。特にセマンティックグラウンディングスコアの標準化が進んでいます。 - マルチエージェントデベート
異なる役割を持つ複数のAIエージェントが議論を行い、生成された内容の信頼性を評価する技術。2025年の最新手法として、従来の単一モデルによる検証よりも高い精度でハルシネーションを検出できることが実証されています。