著者:GOZEN AI Lab管理人
生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放すため、生成AIを活用した業務効率化施策、自動化ワークフローの構築・運用などを手がけ、実践と継続的な改善を通じて仕組みづくりを推進している。
結論:AIは「便利」だけじゃ終わらない、情報を守れる人だけが本当に使いこなせる。
ChatGPTをはじめとする対話型AIは、私たちの仕事や日常生活に欠かせないツールになりました。まるで人間と話しているかのようにスムーズな会話ができるAIは、情報収集やアイデア出し、文章作成など、さまざまな場面でその便利さを発揮しています。
しかし、「便利そうだけど、個人情報とか会社の秘密が漏れたらどうしよう…」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか? 実際にAIへの入力内容が、意図せず外部に流出してしまうリスクはゼロではありません。
この記事では、そんなAIの便利な機能を安全に使いこなすための方法を解説します。個人情報や会社の機密情報をしっかりと守りながら、安心してAIを活用するための具体的なテクニックを、初心者の方にもわかりやすくご紹介します。
AIを使う前に知っておきたい!個人情報漏洩のリスクと対策
AIチャットサービスは、私たちが入力した情報を「学習データ」として利用し、より賢くなろうとする性質があります。この「学習」の仕組みがあるからこそ、AIは日々進化しているのですが、実はここに情報漏洩のリスクが潜んでいます。
AIが「学習」するってどういうこと?
私たちがAIに質問したり、何かを書き込ませたりすると、その内容がAIの開発元サーバーに送られ、AIモデルの改善に使われることがあります。もし、ここに個人情報や会社の秘密が混じっていたらどうなるでしょう? 最悪の場合、その情報がAIの学習によって他のユーザーへの回答にうっかり含まれてしまったり、AI開発元のデータベースから流出してしまったりする可能性も考えられるのです。
最も大切な基本ルール:個人情報・機密情報を入力しない
AIチャットを使う上で、まず心に刻んでほしいのが以下のルールです。
【絶対に入力してはいけない情報の例】
- 個人の情報:氏名、住所、電話番号、メールアドレス、銀行口座番号、クレジットカード情報、マイナンバーなど
- 会社の秘密:まだ公開されていない新製品の計画、顧客リスト、契約書の内容、開発中のプログラムコードなど
- 他人の情報:友人の連絡先、取引先の未公開情報など
「こんな情報、わざわざAIに教えるわけないよ」と思うかもしれませんが、うっかり文章の中に含んでしまったり、無意識のうちに個人を特定できる情報を盛り込んでしまったりすることもあります。常に「この情報をAIに入力しても大丈夫かな?」と立ち止まって考える習慣をつけましょう。このシンプルな習慣が、情報漏洩を防ぐ一番の盾になります。
AIの「学習機能」をオフにする設定
多くのAIサービスには、私たちの入力内容をAIの学習に使わないように設定できる機能があります。これをオフにすることで、入力したデータがAIの学習に使われなくなるため、情報漏洩のリスクを大きく減らすことができます。
後程、詳しく記載している「確実に学習させない設定をする」項目で、あなたの入力した内容がAIの学習に使われることはなくなります。
個人情報・機密情報を守る!おすすめAIサービスと選び方
「基本ルールは分かったけど、もっと安心して使えるAIサービスってないの?」そう思った方もいるでしょう。ここでは、プライバシー保護に特に力を入れているAIサービスや、企業の機密情報を守るためのAI利用プランを解説します。
プライバシー最優先!匿名AI「Duck.ai」を活用する
もしあなたが「とにかく個人情報を絶対に漏らしたくない!」「誰にも知られずにAIを使いたい」と考えているなら、「Duck.ai(ダック・エーアイ)」を使用する事を検討してみましょう。
- 完全匿名で利用可能:会員登録が不要なので、メールアドレスなども入力せず、すぐに使い始められます。
- 会話データはローカル保存:入力した内容がサーバーに保存されることはなく、あなたのデバイスの中だけに保存されます。
- AI学習に利用しない:入力された情報はAIの学習に一切使われません。
- 自動削除機能:会話データは30日以内に自動で完全に消去されます。
- 複数のAIモデルを選べる:最新の高性能AIモデル(GPT-4o mini、Claude 3 Haikuなど)を匿名で利用できます。
Duck.aiは、プライバシー重視の検索エンジン「DuckDuckGo」が提供しているサービスなので、信頼性も高く、安心して利用できます。ちょっとしたアイデア出しや、一般的な情報収集に使うにはぴったりのAIと言えるでしょう。
会社でAIを使うなら!「企業向けAIプラン」が断然おすすめ
ビジネスでAIを活用する場合、個人向けの無料プランや有料プランではセキュリティ面で不安が残ります。そんな時は、各社が提供している「企業向けAIプラン」を検討してみて下さい。
以下はAIを提供している主要企業の対策を調査した内容です:
- OpenAI(ChatGPT): 2023年にSOC 2 Type 2認証を取得し、Bug Bountyプログラムを実施。Enterpriseプランでは顧客データが学習に使われないことを契約で保証。
- Google(Gemini): ISO 27001、ISO 27018認証取得済み。Workspace連携版では「アクセス透明性」機能で管理者がデータアクセスログを確認可能。
- Microsoft(Copilot): Microsoft 365 Copilotでは顧客データの訓練不使用を契約で明示的に保証。Microsoft Purview Auditでテナント内のすべてのAI活動を監査可能。
- DuckDuckGo(Duck.ai): ユーザーとAIプロバイダーの間に匿名化プロキシを実装。最大30日間のデータ保持制限を契約で縛っている。
Microsoft 365 Copilot(MicrosoftのAI)やGoogle Workspaceと連携するGemini(GoogleのAI)など、大手企業のAIサービスも、企業向けプランでは高いセキュリティ対策が施されています。大切な会社の情報や顧客データを扱う場合は、これらの企業向けプランの導入を強く検討しましょう。
また、セキュリティは「ゼロリスク」ではなく「リスク管理」という事を念頭に置くと良いでしょう。
AIを安全に使うための実践テクニック

AIサービスやプラン選びだけでなく、日々の使い方にもちょっとした工夫を取り入れることで、セキュリティをさらに高めることができます。
「情報の匿名化」を徹底する
AIに入力する情報から、個人を特定できる部分や会社の機密情報を徹底的に取り除く「匿名化」は、とても重要なテクニックです。
【匿名化の具体例】
- 固有名詞を一般名詞に置き換える:
- 「〇〇株式会社の山田さん」→「取引先の担当者A」
- 「新製品『サンシャイン』の開発計画」→「新製品(コードネーム:S)の開発計画」
- 数値をぼかす:
- 「売上3,456万円」→「数千万円規模の売上」
- 「顧客数1,234件」→「1,000件以上の顧客」
- 情報を分割して入力する:
- 一つの質問で全ての情報を入れず、複数の質問に分けて入力し、全体像が把握できないようにする。
- ダミーデータを使う:
- AIのテストなどで、本物のデータではなく、偽のデータや練習用のデータを使用する。
AIに質問する前に、一度立ち止まって「この中に、もし外部に漏れても困らない情報だけが含まれているか?」と必ず考えてみてください。
確実に学習させない設定をする
多くのAIサービスでは「学習機能」をオフにできます。各サービスごとの具体的な手順を解説します。
ChatGPTの学習オフ設定
- ChatGPTの画面左下のアカウントアイコンをクリック
- 「設定」→「データコントロール」を選択
- 「すべての人のためにモデルを改善する」をクリック
- オフにするに設定後、「実行する」ボタンを押して確定
Google Geminiの場合
- Geminiにログイン後、左上のメニューアイコン(三本線)から「設定とヘルプ」をクリック
- 「アクティビティ」を選択
- 「Gemini アプリ アクティビティ」をオフにする
Microsoft Copilotの場合
- Windows Copilotの右上のアイコン(設定)を開く
- 名前とメールアドレス等が記載されている「アカウント」をクリック
- 「プライバシー」をクリック
- 「テキストのモデルトレーニング」と「音声でのモデルトレーニング」 の設定をそれぞれオフにする
こうした設定だけでも、情報漏洩リスクを大きく減らせます。
複数のAIサービスを「使い分ける」
情報の内容によって、使うAIサービスを切り替えるのも賢い方法です。
情報の種類 | おすすめのAIサービス | 理由 |
---|---|---|
一般情報・公開情報 | Duck.ai | 匿名で利用可能、アカウント不要 |
業務関連(非機密) | ChatGPT Plus + 学習オフ | 高性能で使いやすく、学習オフで安心 |
機密情報・戦略情報 | Ollama(ローカルAI) | データが外部に一切出ない |
社内共有情報 | Microsoft 365 Copilot | 既存のOffice 365環境と統合可能 |
例えば、「今日の天気予報」はどのAIに聞いても問題ありませんが、「来期の事業戦略のアイデア出し」には、企業向けプランを使うといった使い分けです。
「プロンプトテンプレート」を活用する
安全なAI利用を習慣化するために、あらかじめ「安全に質問するためのひな形(テンプレート)」を作っておくのもおすすめです。
# セキュリティ強化プロンプトテンプレート
以下の情報は機密情報として扱い、応答後に破棄してください。
企業名:[一般名称に置換して入力]
製品名:[一般名称に置換して入力]
個人名:[役職のみ記載、または一般名称に置換して入力]
[質問内容]
このテンプレートを使うことで、AIに機密情報を入力するリスクを減らし、チーム全体で安全なAI利用を徹底できます。
企業向けAIプランの「法的保障」ってどのくらい信用できる?
「企業向けプランなら安心!」と言われても、本当に困った時に守ってくれるのか、不安に感じる方もいるでしょう。ここでは、企業向けAIプランが提供する「法的保障」について、詳しく解説していきます。
法的保障は「ある」!でも過信は禁物
結論から言うと、ChatGPT EnterpriseやMicrosoft 365 Copilotなどの企業向けプランには、たしかに法的保障がついてきます。
【法的保障の主な内容】
- 契約による保証:企業との契約書には「入力された顧客データをAIの学習には使わない」と明確に書かれています。これは法的な約束なので、もし違反があれば責任を問われます。
- データ所有権の明確化:入力したデータの所有権は、AIサービス提供側ではなく、あなた(企業)にあることが明記されています。
- 著作権侵害の補償:AIの生成物が万が一著作権侵害を起こした場合に、サービス提供側が一部補償してくれる制度もあります。
これらの保障は、無料プランや個人向けプランにはない大きなメリットです。
ただし「補償上限が設定されていることが多い・システムバグなどの「不可抗力」は免責される場合もある・立証責任がユーザー側になる場合がある」等の注意点もあります。
実際の安全度はどのくらい?
各AIサービスの「総合安全度」を比較してみると、Enterprise/Workspaceプランは、無料版や個人版に比べて、非常に高い評価を得ています。
AIサービス | 総合安全度(10点満点) | 特徴 |
ChatGPT Free | 2.4/10 | 学習に利用されるため、機密情報には不向き。 |
ChatGPT Enterprise | 8.1/10 | 法的保証あり、データ非学習、監査機能充実。 |
Microsoft 365 Copilot | 8.9/10 | Microsoftの強固なセキュリティ基盤、政府機関採用実績も。 |
Google Workspace + Gemini | 8.1/10 | Googleのセキュリティと連携、柔軟なデータ管理。 |
Duck.ai | 3.4/10 | 完全匿名だが、法的保障や企業向け管理機能はなし。 |
【高評価の理由】
- 外部認証の取得:ISO 27001、SOC 2 Type 2など、国際的なセキュリティ基準の認証を取得しています。これは、第三者機関がセキュリティ体制を厳しくチェックし、合格した証拠です。
- 高度な暗号化:データが送受信される際や保存される際に、強固な暗号化技術が使われています。
- アクセス制御:誰がどのデータにアクセスできるか、細かく設定・管理できます。
- 監査ログ:AIの利用状況や、システムへのアクセス履歴が詳細に記録され、問題発生時に原因究明に役立ちます。
実際にセキュリティインシデント(情報の安全が破られるトラブル)は起きてる?
どんなに優れたシステムでも、100%安全というものはありません。過去には、企業向けプランでもシステムの一時的なバグによって、ごく一部のデータが誤って表示されてしまう、といった小さなインシデントが報告されたこともあります。
しかし、これらのインシデントは、意図的な情報漏洩ではなく、あくまでシステムの不具合によるものであり、発覚後は迅速に修正されています。企業向けプランの提供元は、セキュリティに対して莫大な投資をしており、日々改善を続けているため、一般的な利用においては非常に安全性が高いと言えるでしょう。
まとめ:AIを「賢く安全に」使いこなすために
AIは私たちの生活や仕事を豊かにしてくれる素晴らしいツールです。しかし、その裏には常に情報漏洩のリスクが潜んでいることも忘れてはなりません。AIの便利さを最大限に活かしつつ、大切な情報もしっかりと守るためには、以下のポイントを実践しましょう。
- 個人情報・機密情報は「絶対に入力しない」:これが一番の基本ルールです。
- AIの「学習機能」をオフにする:設定一つでリスクを大きく減らせます。
- 匿名AI「Duck.ai」を賢く使う:プライバシー重視なら、匿名で利用できるDuck.aiがおすすめです。
- 会社では「企業向けAIプラン」を検討する:より高度なセキュリティと法的保障で安心できます。
- 「情報の匿名化」を習慣にする:入力する情報を慎重に選び、必要に応じて内容をぼかしましょう。
AIとの付き合い方は、まさに進化の途中です。新しいサービスや機能が出てくるたびに、セキュリティ対策も進化していきます。常に最新の情報に目を向け、自分と会社の情報を守りながら、AIを賢く、そして安全に使いこなしていきましょう。
よくある質問:FAQ

Q1. 無料のAIサービスを使うのは危険ですか?
A1. 無料のAIサービスは、手軽に利用できる反面、入力した情報がAIの学習に使われる設定になっていることが多いです。個人情報や会社の機密情報を入力しないように徹底し、可能であれば「学習機能のオフ設定」を行い、リスクを最小限に抑えるようにしましょう。
Q2. AIに機密情報を入力してしまいましたが、どうすればいいですか?
A2. まずはすぐにそのチャット履歴を削除し、AIの学習機能をオフに設定してください。もし会社の機密情報であれば、速やかに担当部署や上司に報告し、今後の対応について相談しましょう。場合によっては、情報漏洩のリスク評価と対応が必要になります。
Q3. 会社でAIを使う際の具体的なルール作りはどうすればいいですか?
A3. まずは「AIに入力してはいけない情報」の具体例を明確にし、社内全体に周知徹底しましょう。次に、「情報の匿名化ルール」や「AIの使い分け(無料版、企業版など)」についてもガイドラインを作成すると良いでしょう。定期的な従業員への教育も非常に重要です。
Q4. 「ローカルAIモデル」とは何ですか?メリットはありますか?
A4. ローカルAIモデルとは、インターネット上のAIサービスではなく、あなたのパソコンやサーバー内で動かすAIのことです。外部に情報を送信しないため、情報漏洩のリスクが非常に低いのが最大のメリットです。ただし、設定に専門知識が必要だったり、高性能なパソコンが必要になったりする場合があります。
Q5. AIが生成した文章やコードに著作権の問題はありますか?
A5. AIが生成した文章やコードの著作権については、まだ法的な整備が追いついていない部分が多いのが現状です。企業向けプランでは、AI生成物による著作権侵害に対して、一部補償を行うサービスもありますが、基本的には最終的に利用する側が責任を持つことになります。生成された内容をそのまま使うのではなく、必ず人間が確認・修正し、必要であれば出典を明記するなど、注意して利用しましょう。
専門用語解説
- AI(人工知能):人間の知的な活動をコンピューターで模倣する技術のこと。対話型AIは、人間のように言葉を理解し、文章を生成するAIを指します。
- プロンプト:AIに対して入力する指示や質問のこと。「プロンプトエンジニアリング」は、AIから質の高い回答を引き出すための指示の出し方を工夫する技術を指します。
- 学習データ:AIが知識を習得するために使用する大量のデータのこと。私たちがAIに入力した情報も、設定によっては学習データとして利用されることがあります。
- 匿名化:個人や組織を特定できる情報を取り除いたり、置き換えたりして、情報が漏洩しても誰のものか分からないようにする処理のこと。
- 二要素認証(2FA):ログイン時にパスワードだけでなく、スマートフォンに送られるコードなど、2つの異なる方法で本人確認を行うセキュリティ強化策。不正アクセス防止に非常に効果的です。