AI導入の成果を最大化する『ROI×TTV』完全ガイド!AIが本当に役立つまでの時間、測ってますか?

著者:GOZEN AI Lab管理人
生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放すため、生成AIを活用した業務効率化施策、自動化ワークフローの構築・運用などを手がけ、実践と継続的な改善を通じて仕組みづくりを推進している。


結論:AIに使ったお金が“価値”に変わるタイミングが、すべてを決める。

最近、色々な会社が「AIを導入した!」という話を聞くようになりましたよね。AIはただの流行りではなく、会社が他社に差をつけるために、もはやなくてはならないものになっています。ある調査によると、AIに1ドル投資すると、平均で3.7倍もの見返りがあると言われています。さらに、AIを積極的に使っている会社では、なんと10倍以上もの大きな効果を出しているんです。でも、その一方で、多くの会社が「AIにお金をかけたけど、本当に効果が出てるのか、どうやって測ればいいのか分からない…」と悩んでいるのも事実です。

この記事では、AI導入の投資効果(ROI)をどうやって計算するか、そして、AIが会社にどれくらい早く役立つかを示す「TTV(Time-to-Value)」という考え方についても、分かりやすく説明していきます。AIのことに詳しくない経営者の方から、AIを扱う専門チームの方まで、誰もがAIの効果をきちんと測れるように、具体的な例や計算方法をかみ砕いてご紹介します。

目次

AI導入のROIとは?どうやって計算するの?

ROIの基本的な考え方とAIへの応用

ROI(アールオーアイ)とは、「投資したお金に対して、どれだけの利益が得られたか」を示す割合のことです。基本的な計算式は、とてもシンプルです。

ROI(%) = (投資によって得られた利益 ÷ 投資額) × 100

これをAIの導入に当てはめて考えてみた場合、以下のようになります。

AI導入にかかったお金(コスト)

  • 初期導入費: AIを動かすためのパソコンやソフト、開発にかかったお金。
  • 運用コスト: クラウドサービスを使う料金や、サーバーを維持するお金。
  • 保守・アップデート費用: AIシステムを最新の状態に保つためのお金。
  • 社員のトレーニング費用: AIを使うための社員教育にかかるお金。
  • データ準備・整理費用: AIに学習させるデータをきれいに準備するためのお金。

AI導入で得られる利益(効果)

  • 直接的な効果: 仕事のコストが減ったり、売上が増えたりする、目に見えるお金の利益。
  • 間接的な効果: 仕事の効率が上がったり、お客様の満足度が上がったりする、直接お金にはならないけれど大切な利益。
  • 長期的な効果: 会社の競争力が強くなったり、新しいビジネスが生まれたりする、将来的な大きな利益。

ROIだけではAIの本当の価値が測れない?TTV(Time-to-Value)の重要性

とはいえ、従来のROIという指標だけではAIに投資した本当の価値を完全に捉えきれないことがあります。なぜでしょうか?

ROIの限界点:

  • AIの効果は目に見えない価値が多い: AIは、例えば「社員の意思決定の質が上がる」とか「社員がもっと働きやすくなる」といった、数字にしにくい効果もたくさん生み出します。
  • ROIは過去の数字を見るもの: AIの価値は、使えば使うほど、時間が経てば経つほど、どんどん大きくなっていく特性があります。ROIだけだと、過去の数字しか見ることができません。
  • AI投資は何度も繰り返される: AIは一度導入したら終わりではなく、少しずつ改善したり、新しい機能を追加したりします。最初の導入費用が大きいと、一時的にROIが低く見えてしまうことがあります。

このような限界を乗り越えるために、「TTV(Time-to-Value)」という、もっと広い視点で評価できる新しい考え方が注目されています

TTV(Time-to-Value)フレームワークとは?

TTVってどんな意味?

TTV(ティーティーブイ)は、「価値が生まれるまでの時間」という意味です。AIを導入してから、それが実際に会社にとって役立つ成果を出し始めるまでの期間を測る指標です。単に「いくら儲かったか」だけでなく、「AIがどれだけ早く会社に良い影響をもたらしたか」に焦点を当てています。

TTVが特に重要視される理由:

  • すぐに効果が出たかどうかの評価: 効果が出るまでの時間を測ることで、導入してすぐに成功したかどうかを具体的に見ることができます。
  • 社員みんながAIを使うようになる: 早く成果が出れば、会社全体の社員が「AIって本当に使えるんだ!」と納得し、積極的に活用するようになります。
  • 戦略を柔軟に変えられる: TTVが短いと、もしビジネスの状況が変わっても、AIのやり方を簡単に調整できるようになります。
  • 会社全体に広げられるかの確認: 早く価値が生まれることは、そのAIを会社全体に広げていくことができるかどうかの良い目安になります。

TTVを活用したAI評価の具体的な例

例えば、市役所がAIを使った「市民からの問い合わせに答えるチャットボット」を導入したケースを考えてみましょう。

  • 従来のROI計算だと: 年間で人件費がどれだけ減ったか ÷ 導入や運用にかかったお金
  • TTVで評価すると:
    • 市民への返信時間がどれくらい早く短くなったか(例:2週間で平均の返信時間が60分から10分に短縮された)。
    • AIが自動で対応できる割合がどれくらい早く増えたか(例:導入1ヶ月で問い合わせの60%をAIが自動で答えられるようになった)。
    • 職員がもっと重要な仕事に時間を使えるようになるまでの速さ(例:3ヶ月で戦略的な仕事に使う時間が40%増えた)。

このように、TTVを測ることで、長い目で見たお金の利益(ROI)だけでなく、初期段階でどれだけ早く成功したかを経営層に具体的にアピールできるようになります

っと色々な側面からAIの投資効果を測るフレームワーク

お金にまつわるROIの測定方法

直接的なお金の効果を測る

コスト削減効果

AIによって、社員が手作業でやっていた時間がどれだけ減ったか、それをお金に換算します。

年間で減らせた時間 × 1時間あたりの平均賃金 = 直接的に減らせたコスト
(例:年間10,000時間減らせた場合 × 1時間あたり3,000円 = 年間3,000万円のコスト削減)

実際に、ある銀行では、生成AIを導入することで月に22万時間もの作業時間を減らし、年間で約66億円ものコスト削減効果を達成した事例もあります。

収益向上効果

  • AIによって仕事の処理能力が上がり、売上が増える
  • AIによってお客様の体験が良くなり、リピートしてくれる人が増えたり、1回あたりの購入金額が増えたりする
  • AIによって、これまでできなかった新しいビジネスが生まれる

収益向上効果を測るには、「差分の差分法(Difference-in-Differences、ディファレンス・イン・ディファレンシズ)」という、ちょっと専門的な方法も有効です。これは、AIを導入する前と後、そしてAIを導入したグループと導入していないグループを比較して、AIがどれだけの純粋な利益をもたらしたかを詳しく分析する方法です。

間接的なお金の効果を測る

  • 市場に製品を出すまでの時間の短縮: 新しい製品の開発や宣伝活動がAIによって効率化される。
  • リスクの軽減: AIが法令違反や情報漏洩などのリスクを減らしてくれる。
  • 事業を拡大する能力の向上: 人を増やさなくても、AIの力で事業を大きくできる能力が上がる。

TTVの指標を使ってAIの効果を測る

TTVを活用してAIの効果を測るには、次のような指標を設定すると良いでしょう。

AIの運用面でのTTVの例:

  • システムを使い始めてから、どれくらい早くエラー(間違い)が減ったか
  • 何日目から、AIが自動で問い合わせに50%以上答えられるようになったか
  • 導入してから何週間で、社員の作業時間が減る効果が出始めたか

AIの戦略面でのTTVの例:

  • 重要なことを決めるまでの時間が短くなる効果が現れるまでの期間
  • お客様の満足度が上がるまでにどれくらいの時間がかかったか
  • 新しいビジネスモデルが本当に実現可能か、確認できるまでの時間

AIを組織に浸透させるTTVの例:

  • AIが会社全体にどれくらい早く浸透したか(部署ごとのAI利用率が上がる速さ)。
  • 社員がAI関連のスキルをどれくらい早く習得できたか(トレーニングが終わるまでの時間)。
  • データに基づいて意思決定する文化に、どれくらい早く変わっていったか。

お金では測れない評価指標と測定方法

会社の能力の強化

  • 意思決定の速さ: 大事なことを決めるのにかかる時間が短くなる(例:事業計画の承認プロセスが30%速くなった)。
  • 知識へのアクセスしやすさ: 会社の中にある知識やノウハウに、社員がどれだけ簡単にアクセスできるようになったか(例:必要な情報を探す時間が80%減った)。
  • 新しいアイデアを生み出す力: 新しいアイデアの量や質がどれだけ上がったか(例:社員からの提案件数が増え、採用される率も上がった)。

名古屋商科大学ビジネススクールの研究によれば、、生成AIは特に「日本企業と相性が良い」とされています。これは、日本企業が持つ、はっきり言葉にはできないけれど経験として培われた「暗黙知(あんもくち)」を、AIが分かりやすい形(形式知)に変えるのに役立つためです。

社員の働きやすさと生産性

  • 社員の満足度: 定期的なアンケート調査で、AI導入後に社員の満足度がどう変わったかを測ります。
  • スキルアップの効率: 新しいスキルを学ぶのにかかる時間がどれくらい短くなったか。
  • クリエイティブな仕事時間の増加: 社員がより価値の高い、創造的な仕事に費やす時間の割合がどう変わったか。

会社の競争力と市場での位置づけ

  • 市場でのシェアの変化: AIを活用したことで、市場での会社の占める割合がどう変わったか。
  • 顧客満足度の向上: お客様がどれだけ満足しているかを示すNPS(ネットプロモータースコア)やCSAT(顧客満足度)がどれだけ上がったか。
  • ブランド価値への影響: AI活用によって、会社のイメージやブランドの認知度がどう変わったか。

AI導入ROIを3つの時間軸で考える:短い期間、中くらいの期間、長い期間

ガートナー(調査会社)は、AIへの投資効果を3つの異なる時間軸で評価することを勧めています。これらの時間軸は、先ほど説明したTTVの考え方と深く関係しています

1. 短期ROI・TTV(1年未満):すぐに役立つ生産性の向上

  • 主に、Microsoft 365 CopilotやGoogle Workspaceのような、社員の仕事の効率を上げるツールが当てはまります。導入が簡単で、特定の仕事にかかる時間を短縮する効果を測ります。
    • 例:資料作成の時間が短縮されたり、データ分析が効率的になったり、決まったルーティン作業が自動化されたりする効果。

2. 中期ROI・TTV(1〜2年):他社と差をつける使い方

  • 自社のデータを使って、特定の業界に特化したAIの活用方法です。既存の仕事のやり方を見直し、業務自体を大きく変えることで、他社との競争力を高めます。導入には、より高度な技術や投資が必要になります。

3. 長期ROI・TTV(2年超):会社を変えるような革新的な取り組み

  • 会社のビジネスモデルや市場のあり方を根本から変える可能性を秘めた、革新的なAIの活用です。コストや複雑さ、リスクは高くなりますが、これまでになかった新しい市場を生み出す可能性があります。この段階の投資は、目先の利益よりも、長期的な会社の戦略的なメリットを重視して判断されます。

種別に考える:AI導入効果の測定指標と方法

製造業でのAI効果測定

主な目標となる指標(KPI)・TTVの例:

  • 製品の不良品が減る速さ(導入後何週間で何%減ったか)。
  • AIを使った機械の故障予測によって、設備の稼働率が上がる速さ。
  • 生産計画の最適化によって、在庫が減る率がいつ達成されたか。

測定方法

AIを導入する前の3ヶ月間と、導入後の3ヶ月間を比較し、効果が出始めたタイミングと、その効果の大きさを時間軸に沿って測ります。

小売・サービス業でのAI効果測定

主な目標となる指標(KPI)・TTVの例:

  • お客様1人あたりの購入金額が上がる変化のタイミング。
  • おすすめ機能の精度(クリック率や購入率)がどれくらい早く改善したか。
  • 顧客満足度(NPSという指標の上がり幅)がいつ上がったか。

測定方法

AIを導入したグループと導入していないグループで比較するABテストを実施し、AIの純粋な効果とそれが現れる速さを測ります。

バックオフィス業務でのAI効果測定

主な目標となる指標(KPI)・TTVの例:

  • 業務の処理時間がどれくらい早く短縮されたか。
  • 人為的なミスがどれくらい早く減ったか。
  • 社員1人あたりの処理できる仕事量がいつ上がったか。

測定方法

AI導入前と導入後の作業完了時間を継続的に測り、グラフにすることで、効果が最大限に出るまでの期間を特定します。

AI導入の投資効果を総合的に測るモデルと段階的な評価方法

総合的なROI・TTV測定モデル

AIの効果を本当に測るには、お金に関する面と、お金では測れない面の両方を合わせて評価する仕組みが必要です。

  1. 効率性の向上: 作業時間やコストが減るなどの、直接的な効率改善とその実現までの速さ。
  2. 効果性の向上: 仕事の質が上がったり、成果が最大限に引き出されたりするまでの期間。
  3. 変革的な価値: 新しいビジネスモデルや仕事のやり方が生まれるタイミング。
  4. 戦略的な価値: 長期的な会社の競争力にどれくらい貢献しているかが、いつ頃から明らかになるか。

これらを全て一緒に評価することで、AI投資のROIとTTVを、より包括的で全体的に捉えることができます

段階的な評価アプローチ

AI導入のROI・TTV測定は、一度やって終わりではありません。次のような段階的な方法で評価していくのが効果的です。

  1. パイロット評価(TTVを重視): まずは小さな範囲でAIを導入してみて、どれくらい早く初期の効果が出るかを測ります。
  2. 拡大段階評価(TTVとROIを重視): 部署全体にAIを広げた時に、どれくらいの効果が出ているか、そしてどんな課題があるかを測り、価値が生まれるスピードを分析します。
  3. 全社展開評価(ROIを重視): AIが会社全体に導入された時の影響と、全てを合わせた効果を測ります。
  4. 長期的価値評価(総合的なROI): 2〜3年にわたって、AIがもたらす長期的な効果を追いかけます。

それぞれの段階で評価するポイントを調整し、常に効果をチェックし続けることが大切です。

ROIとTTVを最大限に高めるための具体的な戦略

どんなAIを使うか、戦略的に選ぶ

AI導入の最初の「お試し(Proof of Concept、PoC)」が成功するかどうかが、会社全体に広げる鍵を握ります。

  • 効果が見えやすく、早く成果が出るもの: 3〜6ヶ月以内に具体的な数字で効果が現れやすい仕事の分野を選びましょう。
  • データの準備状況: すでにあるデータが整理されていて、最初にかかるお金を抑えられる分野を優先しましょう。
  • 現場の協力度: プロジェクトに協力してくれるチームや部署から始めるとスムーズに進みます。

特に、「頻繁に行われる仕事で、決まったやり方があり、データがたくさんある」という3つの条件を満たす業務は、AI導入の効果が最も出やすく、TTVも短縮できる、まさに「黄金の領域」と言えます

少しずつ投資していく方法(ステージゲート方式)

リスクを最小限に抑えながら、投資効果を最大限に引き出すための戦略的な進め方を取り入れましょう。

  1. フェーズ1(PoC・TTVを重視): 限られた部署で3〜6ヶ月の実証実験を行います(この段階での投資額は、全体の予算の10%くらいに抑えます)。
  2. フェーズ2(パイロット・TTVとROIを重視): いくつかの部署で半年〜1年の試験運用を行います(この段階での投資額は、全体の予算の30%くらいです)。
  3. フェーズ3(本格展開・ROIを重視): AIを会社全体に広げ、継続的に改善していくサイクルを確立します(残りの60%を投資します)。

それぞれのフェーズが終わる時には、「目標の80%以上を達成した」とか「期待していたTTVを達成した」といった、はっきりとした基準を設けて、次のフェーズに進むかどうかを判断します。この方法なら、最初のPoCがうまくいかなくても、失うお金を全体の予算の10%に抑えることができます。

新しい契約モデルの導入

AIシステムを開発してくれる会社(ベンダー)と、リスクと利益を分かち合う、新しい契約の仕方が2025年のトレンドになっています。

  • 成果に応じてお金を払う: AIによって削減できたコストや増えた売上の一部を、ベンダーに支払う契約です。
  • TTVと連動した契約: 価値が生まれるまでの期間に応じて、支払い条件を設定します。
  • 段階的な支払い: 成功の目標を達成するごとに、追加で投資を行う支払い方法です。
  • SLA(サービス品質保証)と連動した料金: AIの精度やシステムの安定性に応じて、支払う料金が変わる仕組みです。

特に「最低限の支払いを保証しつつ、成果が出たら追加で支払い、さらにTTVの目標を達成したらボーナスを払う」という契約は、ベンダーのやる気を引き出しながら、発注する側のリスクを抑えられる、とても良いモデルです。

AI投資の失敗を防ぐための方法

失敗事例から学ぶ教訓

事例1:データの質が悪くてAIの精度が低く、TTVが長くかかったケース

  • 状況: 製造業のX社が、製品の品質をチェックするAIを導入しましたが、期待した効果が出ませんでした。
  • 原因: AIに学習させたデータに偏りがあったり、量が足りなかったりしたため、AIの精度が低くなりました。その結果、効果が出るまでの時間(TTV)が長くかかり、社内でAIを支持する声が減ってしまいました。
  • 対策: AIを導入する前に、データの質をしっかり評価するプロセスを作りましょう(少なくとも6ヶ月分のデータを検証する)。また、早く効果を出すためにTTVを重視する戦略を立てましょう。

事例2:現場の社員がAIを使ってくれなかったケース

  • 状況: 金融機関のY社が、AIを使った審査システムを導入しましたが、現場の社員がほとんど使ってくれませんでした。
  • 原因: 現場の担当者が新しいシステムに抵抗したり、十分なトレーニングがなかったりしたためです。AIの価値を実感するまでの時間が長すぎたのも問題でした。
  • 対策: 導入前に、社員が新しいシステムにスムーズに移行できるような計画(チェンジマネジメントプラン)を立て、段階的に導入しましょう。短い期間で具体的な価値を創り出すことで、社員のやる気を高めることができます。

失敗を避けるためのチェックリスト

AI導入を成功させるために、以下の点をチェックしましょう。

□ AIに与えるデータの質と量は十分か?

□ 現場の社員がITにどれくらい詳しいかを考慮しているか?

□ TTV(価値が生まれるまでの時間)を短くするための戦略はあるか?

□ 短期・中期・長期の3つの期間で、効果を測る計画は立てられているか?

□ AIシステムを開発・提供する会社(ベンダー)のサポート体制は充実しているか?

□ AIシステムは、将来的に規模を拡大できるような(拡張性のある)設計になっているか?

ーススタディ:カスタマーサポートAIのTTV・ROIの検証

AI導入の背景と解決したい課題

年間36,000件の問い合わせがあるECサイト運営企業のケーススタディです。

AI導入前の課題

  • お客様への平均返信時間:60分
  • お客様の満足度(CSAT):100点中75点
  • オペレーターの離職率:年間30%
  • 色々な言語に対応する限界があった

AI導入で達成したい目標

  • 平均返信時間:10分以内(83%改善)
  • CSAT:85点以上(13%改善)
  • AIによる自動返信率:60%以上
  • オペレーター1人あたりが処理できる問い合わせ件数:1日50件から1日120件へ(140%向上)

TTV・ROI測定の結果

TTV測定結果:

  • AI導入から2週間後には、平均返信時間が60分から25分に短縮されました(目標の58%達成)。
  • 1ヶ月後には、AIによる自動返信率が40%に達しました(目標の67%達成)。
  • 2ヶ月後には、お客様の満足度(CSAT)が80点まで向上しました(目標の50%達成)。
  • そして3ヶ月後には、すべての目標(KPI)が目標値の80%以上を達成しました。

AI導入にかかったお金(初年度)

  • 最初の導入費用:800万円(AIのカスタマイズ開発やデータ準備を含む)
  • 年間利用料:480万円(月額40万円 × 12ヶ月)
  • 運用・保守費用:240万円(月額20万円 × 12ヶ月)
  • 社内での人件費:240万円(AI導入に関わった社員0.5人分の12ヶ月の人件費として)
  • 合計コスト:1,760万円

AI導入で得られた効果(初年度)

  • 人件費削減:1,440万円(オペレーター3人分の年間人件費削減)
  • 仕事の処理能力向上:720万円(残りのオペレーターの生産性が140%上がった分)
  • 顧客満足度改善:360万円(お客様満足度が75点から88点に上がったことによる解約率低下の効果)
  • 多言語対応力強化:480万円(これまで外部に頼んでいた翻訳費用が減った分)
  • 合計効果:3,000万円

ROIとTTVの分析

  • 初年度のROI:(3,000万円 – 1,760万円) ÷ 1,760万円 = 70.5%
  • 投資したお金を取り戻すまでの期間:7.0ヶ月
  • TTV(主要な価値が生まれるまでの期間):3ヶ月
  • 5年間で得られる将来の利益を現在のお金に換算した金額(NPV):8,200万円

とめ:AI投資を成功させるための5つの大切なポイント

  1. 色々な視点で評価する: ROI、TCO(AIシステム全体にかかる総費用)、TTV(価値が生まれるまでの時間)を組み合わせて、多角的にAIを評価しましょう。
  2. 時間の流れを意識する: 最初はTTV(どれだけ早く効果が出たか)を重視し、その後は長期的なROI(どれだけ利益が出たか)へと評価の焦点を段階的に移しましょう。
  3. 少しずつ導入する: 小さな規模でAIを試す(PoC)ことから始めて、効果を確認しながら少しずつ広げていくことで、投資のリスクを最小限に抑えられます。
  4. 価値が生まれるのを加速させる: 導入してすぐに具体的な効果を示すことで、社内全体からのAIへの支持を得られ、AIが社内に定着するのを後押しできます。
  5. データに基づいて決める: 感覚や勘に頼るのではなく、数字に基づいたTTVやROIの評価を行い、段階的な投資アプローチを徹底しましょう。

AI投資は、単に流行に乗るだけでなく、具体的なビジネス価値を素早く生み出すための戦略的な取り組みです。ROIだけでなくTTVも重視した、バランスの取れた評価方法を活用することで、短い期間、中くらいの期間、そして長い期間で最適化されたAIの活用計画を立てることができ、会社の競争力を高め、持続的に成長していくための鍵となります。

くある質問:FAQ

Q1. AIを導入してTTVを短くするには、どんなことをすれば良いですか?
A1.
TTVを短くするためには、「小さく始めて、早く成果を出す」という方法がとても有効です。具体的には、①すでにあるデータがきちんと整理されている業務から始める、②目標を明確にして、数字で測れるようにする、③現場の社員を早い段階から巻き込む、④小さな成功を積み重ねて、それを社内でアピールする、⑤AI導入後のサポート体制をしっかり整える、といったことが効果的です。少なくとも3ヶ月以内に具体的な価値を示すことを目標にしましょう。

Q2. AI導入のROIとTTVは、お互いにどんな関係がありますか?
A2.
ROIとTTVは、お互いに影響し合う、補完的な関係にある指標です。TTVが短いほど、社員がAIを受け入れやすくなり、積極的に使うようになるので、結果的にROIも高まる傾向があります。逆に、TTVが長引くと、たとえ将来的に大きな利益が見込めても、現場の社員の抵抗や経営層の支持が減ってしまうことで、投資効果が十分に発揮されにくくなります。特にAI導入の初期段階ではTTVを優先し、AIの価値が社内に広がった後に、ROIを最大化する戦略に切り替えるのが効果的です。

Q3. AI投資の失敗を防ぐための、一番大切なポイントは何ですか?
A3.
AI投資の失敗を防ぐ一番大切なポイントは、「現実的な期待値を持ち、段階的に進めること」です。会社全体に一気に導入するのではなく、まずは小さな規模でAIを試す(PoC)ことから始めて、効果を確認しながら段階的に広げていくことで、リスクを最小限に抑えられます。特に重要なのは、早い段階で「成功体験」を作り出すことです。TTVを短くして、具体的な成果を示すことで、会社全体のAIへの信頼と支持を獲得できます。技術的な側面だけでなく、社員がAIを受け入れてくれるか、そして変化を管理する体制が整っているかにも十分な注意を払うことが、成功への鍵となります。

門用語解説

  • TCO(総所有コスト)
    AIシステムを導入する際にかかる初期費用だけでなく、運用費、保守費、社員の教育費など、
    AIを所有している期間全体にかかる全てのお金を合計したものです。
    AI導入では、目に見えるライセンス費用以外にも、気づきにくい隠れたコストがたくさん存在します。
  • PoC(概念実証)
    新しい技術やアイデアが、実際に実現可能かどうかを検証するための小規模な実験のことです。
    AI導入では、本格的に大きな投資を行う前に、そのAIが本当に効果があるのかどうかを確認するための、とても重要なステップとなります。
  • NPV(正味現在価値)
    将来AIから得られると予想されるお金の流れ(キャッシュフロー)を、今の時点での価値に換算し、そこから最初の投資額を差し引いた金額のことです。
    NPVがプラスの数字であれば、そのAI投資は価値があると判断されます。

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GOZEN AI Lab管理人、生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)。生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放す自動化システムの開発・検証・最適化に注力。これまでに、生成AIを活用した業務効率化施策や、n8n・Difyを用いた自動化ワークフローの構築・運用を手がけ、実践を通じて継続的な改善と最適化に取り組んでいる。

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