著者:GOZEN AI Lab管理人
生成AIエンジニア(オープンバッジ取得)生活や業務に潜む「面倒くさい」を手放すため、生成AIを活用した業務効率化施策、自動化ワークフローの構築・運用などを手がけ、実践と継続的な改善を通じて仕組みづくりを推進している。
結論:AIは今のところ“気合”で記憶してます。
「AIはなぜ会話できる?」と考えたことはありませんか?特に、少し前に話した内容を覚えていて、それに沿った返事ができるのは人間のようですよね。
このAIとのスムーズな会話の裏側には、「文脈保持」という非常に重要な仕組みが隠されています。単に言葉を返すだけでなく、会話全体の流れや意味を理解し、それに合わせた応答を生成する。これができるからこそ、AIは私たちの頼れるパートナーになり得るのです。
この記事では、専門的な知識がない方にも分かりやすく、「AIはなぜ会話できるのか?」、そしてその鍵となる「文脈保持の仕組み」について徹底的に解説していきます。
かつてのAIは「会話ベタ」だった? AI会話の進化
AIの会話能力は、ここ数年で劇的に進化しました。皆さんも覚えているかもしれませんが、一昔前のAIアシスタントやチャットボットは、決められた質問にしか答えられなかったり、少し文脈が変わるだけで「???」となる返事をしたりすることがよくありました。まるで、単語しか聞いていないような印象でしたよね。
しかし現在は私たちの曖昧な質問にも柔軟に対応し、時には冗談を交えたり、感情に寄り添うような言葉を選んだりすることもあります。この進化を支えているのが、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる、膨大なテキストデータを学習したAI技術です。
人間の「会話」って、そもそもどう成り立ってるの?
AIが会話できる仕組みを知る前に、そもそも私たち人間がどうやって会話しているのか、少し考えてみましょう。会話は、単語を並べるだけではありませんよね。
- 言葉の意味を理解する: 「りんご」と言えば、あの果物だと分かります。
- 文の構造を理解する: 「私が食べた」と「食べた私が」では、意味が違います。
- 文脈を理解する: 同じ「暑いね」でも、真夏に言うのか、ストーブの前で言うのかで、意図が全く異なります。
- 非言語的な要素も加味する: 表情や声のトーンなども、会話の大切な要素です。
AIが「会話できる」というのは、これらの人間の会話の要素を、コンピューター上で模倣しようとする試みなんです。特に重要なのが、3つ目の「文脈を理解する」こと。これがまさに、「AI 文脈保持」の核心です。
会話の鍵はこれ!AIが「文脈」を覚える驚きの仕組み
さあ、本題です。AIが会話の文脈をどうやって「覚えている」のか、
AIは人間のように脳を持っているわけではありません。では、どうやって過去の会話内容を踏まえた返事ができるのでしょうか?ポイントは、AIが会話を「データ」として扱っている点にあります。
- 会話履歴をすべて「見る」:
AIが新しい応答を生成する際、単に直前の発言だけを見ているわけではありません。実は、そのセッションでの過去の会話のやり取り全体を、まるごとインプットとして受け取っています。
例えるなら、皆さんが友達と話すときに、直前の発言だけでなく、さっきまで何を話していたか、どんな話題で盛り上がったかを頭の中で思い出しながら話しているのと似ています。AIは、これをデジタルデータとして行っているのです。 - 言葉を「数値」に変換する:
AIは言葉を直接理解できません。まず、言葉や文章を「トークン」と呼ばれる小さな単位(単語や文字の塊)に分け、それを「埋め込みベクトル」という数値の並びに変換します。この数値が、その言葉の意味や文法的な役割を表す「しるし」のようなものです。
この「埋め込みベクトル」のすごいところは、意味が似ている言葉は、数値としても近い位置に表現される点です。例えば、「犬」と「猫」は、「車」と「鉛筆」よりも数値的に近い位置にいるイメージです。 - 「注意」を向けるしくみ(アテンションメカニズム):
会話履歴全体をインプットしても、すべてが同じくらい重要とは限りませんよね。直前の発言や、特定のキーワード、最初に話した内容などが、特に重要になることがあります。
ここで活躍するのが、「アテンションメカニズム(注意機構)」と呼ばれる仕組みです。これは、入力された会話履歴の中で、応答を生成するために特に重要だと判断される部分に「注意」を向けるための技術です。
まるで、会議で重要な発言が出たときに、そこだけ集中して耳を傾けたり、本の要点をメモしたりするように、AIは「これは重要だ!」と思う過去の会話部分に重みをつけて処理するのです。これにより、文脈の中で本当に必要な情報だけを抽出することができます。 - 「トランスフォーマー」モデルの力:
先ほど触れた大規模言語モデルの多くは、「トランスフォーマーモデル」という革新的な技術をベースにしています。このモデルは、従来のように順番に情報を処理するのではなく、入力された文章全体や会話履歴全体を並列で一度に処理することに長けています。
例えるなら、リレー形式で情報を伝達するのではなく、参加者全員が同時に情報を共有し、それぞれの関連性を瞬時に把握するようなイメージです。この能力のおかげで、長い会話でも、文脈の中での単語同士や文同士の関係性を効率的に捉えることができるようになりました。
これらの技術、特に「会話履歴全体をインプットする」「言葉を数値化する」「重要な部分に注意を向ける(アテンション)」「全体を並列で処理する(トランスフォーマー)」が組み合わさることで、AIは過去の会話内容を踏まえた、筋の通った自然な応答を生成しているのです。これが、「AI 文脈保持」の秘密であり、AIが「まるで会話できる」ように見える理由なんですね。
文脈保持にも限界がある? AIとの会話で知っておきたいこと

AIの文脈保持能力は目覚ましいものがありますが、人間のように完全に過去のすべてを覚えているわけではありません。
- 会話の長さには限界がある: AIが一度に処理できる会話履歴の量には上限があります。あまりに長い会話になると、古い内容は「忘れてしまう」ことがあります。これは、大量の情報を一度に処理するのが難しいためです。まるで、人間のワーキングメモリにも限界があるのに似ています。
- 微妙なニュアンスは苦手: 皮肉や比喩、遠回しな表現など、人間同士なら通じる微妙なニュアンスを完全に理解するのは、まだ難しい場合があります。
- 学習データに依存: AIの応答は、学習した膨大なデータに基づいています。データにない特殊な文脈や、非常に個人的な話には対応できないこともあります。
これらの限界を知っておくと、AIとの会話で「あれ?」と思うことがあっても、「そういうものか」と受け止めやすくなります。完璧ではないからこそ、私たち人間が使い方を工夫したり、時には明確に教えてあげたりすることも大切です。
とはいえ対策が無いわけではありません、以下でその対策を説明します。
文脈保持のコツ(重要)
例えばアプリを作るとして、全てをAIに丸投げした場合「会話の長さに限界がある」為、途中まで作れていたのに、いきなり「何の話をしていましたっけ?」となってしまう事があり「0」からスタート、なんて経験がある方はいるのではないでしょうか?
実はこれにはコツがあって「定期的に現在のやるべきことや計画の状況をAIに再確認させる」事で情報を忘れにくくなります。
- 会話の区切りごとや、時間経過で定期的に「現在の計画は~」「次にやることは~」と確認する。
- 「これまでの計画を要約して」と指示し、その要約を確認・修正する形で進める。
- 可能であれば、計画の段階で項目に番号を振ったり、箇条書きにするなど、AIが参照しやすい構造で情報を伝える。
- 指示書を先に作っておき、それを常に更新させ、それを基に次の行動を行うように指示する
つまり、人間の記憶を補助するメモやリマインダーのようなステップを加える事で、AIの「忘却」を防ぎ、よりスムーズに計画を進めるための有効な手段となるので、ぜひ試してみてください。
まとめ
AIがなぜ会話できるのか、特に「文脈保持の仕組み」について解説しました。大規模言語モデル、自然言語処理、トークン化、埋め込みベクトル、そしてアテンションメカニズムといった技術が組み合わさることで、AIは過去の会話内容を踏まえた、驚くほど自然な応答を生成しています。
もちろん、まだ完璧ではありませんし、人間のような本当の意味での「理解」とは異なります。しかし、この技術の進化のスピードは凄まじく、これからさらにAIは文脈を正確に捉え、よりパーソナルで、より人間らしい会話ができるようになるでしょう。ぜひ、この知識を活かし、AIを有効活用してみてください。
よくある疑問:FAQ
Q1. 長い会話だとAIは文脈を忘れるの?
A1. はい、現在のAIは一度に処理できる会話履歴の量に限界があります。そのため、非常に長い会話になると、古い内容については文脈を正確に保持するのが難しくなり、忘れてしまうことがあります。
Q2. AIは私の個人的な情報を覚えているの?プライバシーは大丈夫?
A2. 会話セッション中はその文脈を保持するために履歴を使いますが、基本的にはセッションが終了するとその会話履歴は保持されません(サービス提供者の方針によります)。AIモデル自体があなたの個人的な情報や過去のすべての会話を「記憶」しているわけではありません。ただし、サービスによっては利用履歴を分析する場合がありますので、利用規約を確認することが重要です。
Q3. 昔のAIはなぜ会話がヘタだったの?
A3. 昔のAIは、事前に決められたルールやパターンに基づいて応答を生成する方式が主流でした。そのため、少しでも定型から外れた質問や複雑な文脈に対応できず、不自然な会話になっていました。現在の大規模言語モデルは、膨大なデータを学習し、文脈に基づいて柔軟な応答を生成できるようになったため、会話能力が飛躍的に向上しました。
Q4. AIは本当に私の言っている意味を「理解」しているの?
A4. AIの「理解」は、人間のような意識や感情を伴うものではありません。AIは、学習したデータに基づいて言葉の関連性やパターンを統計的に処理し、最もらしい応答を生成しています。これは「意味を把握しているように見える」状態であり、哲学的な意味での真の理解とは異なります。しかし、実用上は非常に高度な「理解」と言えるレベルに達しています。
Q5. 文脈保持の技術はどんなことに使われているの?
A5. 文脈保持は、AIチャットボットやバーチャルアシスタントだけでなく、機械翻訳(前の文脈を考慮して訳す)、文章要約(全体の文脈を捉えてまとめる)、情報検索(質問の意図を文脈から判断する)など、自然言語処理に関わる幅広い分野で活用されています。
専門用語解説
- 大規模言語モデル(LLM – Large Language Model): インターネット上のテキストデータなど、膨大な量の言葉のデータを学習したAIモデルのこと。単語の次にどんな単語が来るか、文章はどう構成されるかを予測する能力が高く、自然な文章生成や会話を可能にしています。
- 自然言語処理(NLP – Natural Language Processing): 人間が日常的に使う「自然言語」(日本語や英語など)をコンピューターに理解させたり、生成させたりするための技術分野のこと。AIが会話できるのは、この自然言語処理の技術のおかげです。
- トークン: 文章をAIが処理しやすいように区切った小さな単位。単語そのものだったり、単語の一部だったりします。AIはまず文章をトークンに分解してから処理します。
- 埋め込みベクトル(エンベディング): 言葉やトークンが持つ意味や文法的な情報を、数値の並び(ベクトル)として表現したもの。意味が近い言葉は数値としても近くに配置されるように学習されます。AIはこの数値を使って言葉の関係性を捉えます。
- アテンションメカニズム(注意機構): AIモデルが、入力されたデータ(会話履歴など)の中で、特に重要と思われる部分に「注意」を向けて処理するための仕組み。これにより、長い文章や会話の中から必要な情報を効率的に抽出し、文脈を正確に捉えることができます。